ACK で OpenKruise をためしてみた
ACK で OpenKruise をためしてみた
本記事では、オープンソースで提供されている OpenKruise を、Container Service for Kubernetes (ACK) へデプロイして動作する方法を記載します。
Alibaba サービスでのコンテナ利用の背景
Alibaba では以前からサービスのコアシステムとして、Kubernetes ベースのクラウドネイティブ環境へ移行を行ってきました。
Double 11 Global Shopping Festival などを含む、Alibaba サービスで利用されているコンテナクラスター内のアプリケーションの数は100,000を超え、そのコンテナーの数は数百万に達しています。
このような大規模な環境下でのコンテナリリース管理では、多数のアプリケーションのアップデートで発生する Pod のスケジューリング・ディスク割り当て・イメージ取得などにより、リリース完了までの時間がさらに長くなります。
Kubernetes ネイティブワークロードだけでこれらの要件を満たす事は難しく、Alibaba Cloud ではこの問題を解決する為に OpenKruise を開発しました。
OpenKruiseは、Alibaba サービスの多くのアプリケーションの展開とリリース管理で使用されています。
OpenKruise の主な特徴
OpenKruise は Alibaba Cloud によって大規模アプリケーション向けに開発された、オープンソースのアプリケーションマネージメントエンジンです。
Deployment や StatefulSet など、Kubernetes ネイティブワークロードと同様の機能に加え、多くの拡張機能を提供しています。
現在 OpenKruise は、Cloud-Native Computing Foundation(CNCF)の下、サンドボックスプロジェクトとしてホストされています。
OpenKruise の重要な機能の1つに「インプレースアップデート」があります。リリース時にコンテナーを再作成・スケジュールする事なく Pod のイメージのみをアップグレードする事ができます。
Alibaba 環境ではこの機能を利用し、従来のアップグレードよりも展開速度が80%以上向上しました。
その他にも、サイドカーコンテナインジェクションやドメイン単位でのワークロード管理、イメージのプレダウンロードをサポートしています。
◆ インプレースアップデート
・ Pod を削除および再作成せずにコンテナイメージを更新する方法で、Pod の配置先やIPアドレス・名前などが変更されないため、アップデーと時間を短縮します。
◆ サイドカーマネージ
・ Pod へサイドカーコンテナをインジェクトし管理します。
◆ マルチフォールトドメインデプロイメント
・ さまざまなドメインのワークロードのレプリカ、テンプレートおよびアップデートを管理できます。
◆ イメージプレダウンロード
・指定したノードへコンテナイメージをダウンロードします。
リソース
OpenKruise で利用可能なリソースには、上記で説明した特徴的な機能が含まれており、各リソース名からもわかるように、Kubernetes のネイティブリソースを拡張させたような機能が利用できるようになっています。 以下に各リソースを簡単にまとめてみましたが、詳細な設定内容を確認したい場合は、オフィシャルのドキュメントを参照頂ければと思います。
CloneSet
CloneSet は、ステートレスアプリケーションを管理するためのリソースで、スケールアウト、スケールイン、インプレースアップデートや指定した Pod の削除などが実行でき、Deployment を拡張したようなリソースです。
Advanced StatefulSet
Advanced StatefulSet は、インプレースアップデート、MaxUnavailable を使用したローリングアップデートがサポートされた StatefulSet を拡張したリソースです。
SidecarSet
SidecarSet は AdmissionWebhook を使用し、 Pod にサイドカーコンテナをインジェクトします。サイドカーコンテナのインプレースアップデート、ボリュームのマウントをサポートしています。
Advanced DaemonSet
Advanced DaemonSet は、ノードに1つだけ Pod を展開し、MaxSurge, partition, Pause を使用したローリングアップデートをサポートしています。
UnitedDeployment
UnitedDeployment は、クラスター内のラベルで識別された複数ノードのグループに対してリソースを Pod をデプロイします。 statefulSetTemplate, advancedStatefulSetTemplate, cloneSetTemplate, deploymentTemplate をサポートしています。
BroadcastJob
BroadcastJob は、クラスター内の全てのノードへ Pod をデプロイしジョブを実行します。
AdvancedCronJob
AdvancedCronJob は、スケジュールされたジョブや BroadcastJob を実行します。
ImagePullJob
ImagePullJob は、selector を使用して指定したノードへコンテナイメージをダウンロードし、事前にイメージをウォームアップします。
実行例
では、公式ドキュメントを参考に動作を確認して行きたいと思います。
事前準備として、OpenKruise を Kubernetes 環境へデプロイしておく必要があり、Alibaba Cloud の ACK コンソールの App Catalog からもデプロイする事も出来るのですが、こちらは最新バージョンではない為、今回はドキュメント記載の Helm からセットアップしています。
デプロイすると CustomResourceDefinition (CRD) , Service , Deployment, Daemonset が作成されます。
$ helm install kruise https://github.com/openkruise/kruise/releases/download/v0.8.1/kruise-chart.tgz$ kubectl get all -n kruise-systemNAME READY STATUS RESTARTS AGEpod/kruise-controller-manager-6797f89d9b-28vg9 1/1 Running 0 26spod/kruise-controller-manager-6797f89d9b-hkz7f 1/1 Running 0 26spod/kruise-daemon-9ss7t 1/1 Running 0 26spod/kruise-daemon-dgtr7 1/1 Running 0 26spod/kruise-daemon-jcjvn 1/1 Running 0 26sNAME TYPE CLUSTER-IP EXTERNAL-IP PORT(S) AGEservice/kruise-webhook-service ClusterIP 172.16.13.160 <none> 443/TCP 26sNAME DESIRED CURRENT READY UP-TO-DATE AVAILABLE NODE SELECTOR AGEdaemonset.apps/kruise-daemon 3 3 3 3 3 <none> 26sNAME READY UP-TO-DATE AVAILABLE AGEdeployment.apps/kruise-controller-manager 2/2 2 2 26sNAME DESIRED CURRENT READY AGEreplicaset.apps/kruise-controller-manager-6797f89d9b 2 2 2 26s$ kubectl get crd | grep kruiseadvancedcronjobs.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zbroadcastjobs.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zclonesets.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zdaemonsets.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zimagepulljobs.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Znodeimages.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zsidecarsets.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zstatefulsets.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Zuniteddeployments.apps.kruise.io 2021-04-14T06:14:48Z
CloneSet
OpenKruise の重要な機能の一つである「インプレースアップデート」と、Pod のスケールインの際に指定した Pod を削除する 「Selective Pod deletion」 を CloneSet から実行してみます。
インプレースアップデートを使用する事で、Pod の Name, IPアドレス , 起動しているホストを変更せず、コンテナイメージだけアプデートすることが出来るようになっています。
ドキュメント記載のサンプルマニフェストを作成し CloneSet をデプロイします。
updateStrategy
へ type: InPlaceOnly
を設定することで、インプレースアップデートでアップデートが実行されるようになります。
apiVersion: apps.kruise.io/v1alpha1kind: CloneSetmetadata:labels:app: samplename: samplespec:replicas: 5selector:matchLabels:app: sampleupdateStrategy:type: InPlaceOnlytemplate:metadata:labels:app: samplespec:containers:- name: nginximage: nginx:alpine
CloneSet から nginx:alpine
イメージで Pod が作成されました。
作成された Pod のステータスを確認しておきます。
$ kubectl get clonesetNAME DESIRED UPDATED UPDATED_READY READY TOTAL AGEsample 5 5 5 5 5 15s$ kubectl get pod -o wideNAME READY STATUS RESTARTS AGE IP NODE NOMINATED NODE READINESS GATESsample-4d2gd 1/1 Running 0 16s 10.8.0.150 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-7457c 1/1 Running 0 16s 10.8.0.148 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-kh852 1/1 Running 0 16s 10.8.0.147 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tcnpm 1/1 Running 0 16s 10.8.0.149 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tvrb7 1/1 Running 0 16s 10.8.0.151 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1$ kubectl get pods sample-4d2gd -o jsonpath='Name: {.metadata.name}{"\n"}uid: {.metadata.uid}{"\n"}hostIP: {.status.hostIP}{"\n"}podIP: {.status.podIP}{"\n"}image: {.status.containerStatuses[].image}{"\n"}'Name: sample-4d2gduid: 9cae0047-8f4b-448f-bc35-c804ff4b3fbehostIP: 192.168.1.170podIP: 10.8.0.150image: nginx:alpine
ではコンテナイメージをnginx:alpine
から debian ベースのnginx:latest
へマニフェストを変更しデプロイします。
一度 Pod が再起動された為 RESTARTS
が 1
になっています 。
Pod のステータスを確認すると、アップデート前と同じ状態のままでコンテナイメージだけが変更されています。
$ kubectl get pod -o wideNAME READY STATUS RESTARTS AGE IP NODE NOMINATED NODE READINESS GATESsample-4d2gd 1/1 Running 1 2m43s 10.8.0.150 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-7457c 1/1 Running 1 2m43s 10.8.0.148 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-kh852 1/1 Running 1 2m43s 10.8.0.147 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tcnpm 1/1 Running 1 2m43s 10.8.0.149 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tvrb7 1/1 Running 1 2m43s 10.8.0.151 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1$ kubectl get pods sample-4d2gd -o jsonpath='Name: {.metadata.name}{"\n"}uid: {.metadata.uid}{"\n"}hostIP: {.status.hostIP}{"\n"}podIP: {.status.podIP}{"\n"}image: {.status.containerStatuses[].image}{"\n"}'Name: sample-4d2gduid: 9cae0047-8f4b-448f-bc35-c804ff4b3fbehostIP: 192.168.1.170podIP: 10.8.0.150image: nginx:latest
次に Pod のスケールインで、指定した Pod だけ削除される Selective Pod deletion を試してみます。
こちらは、先ほどのマニフェストへ scaleStrategy:podsToDelete:- <削除したいPod>
を設定します。今回は replicas
を 4
へ変更し sample-4d2gd
が削除されるようにしてみます。
※ podsToDelete を設定しない場合は、ランダムに Pod が削除されます。
apiVersion: apps.kruise.io/v1alpha1kind: CloneSetmetadata:labels:app: samplename: samplespec:replicas: 4scaleStrategy:podsToDelete:- sample-4d2gdselector:matchLabels:app: sampleupdateStrategy:type: InPlaceOnlytemplate:metadata:labels:app: samplespec:containers:- name: nginximage: nginx:latest
指定した sample-4d2gd
が削除され、CloneSet の値も更新されています。
$ kubectl get pod -o wideNAME READY STATUS RESTARTS AGE IP NODE NOMINATED NODE READINESS GATESsample-4d2gd 0/1 Terminating 1 12m 10.8.0.150 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-7457c 1/1 Running 1 12m 10.8.0.148 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-kh852 1/1 Running 1 12m 10.8.0.147 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tcnpm 1/1 Running 1 12m 10.8.0.149 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tvrb7 1/1 Running 1 12m 10.8.0.151 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1$ kubectl get pod -o wideNAME READY STATUS RESTARTS AGE IP NODE NOMINATED NODE READINESS GATESsample-7457c 1/1 Running 1 12m 10.8.0.148 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-kh852 1/1 Running 1 12m 10.8.0.147 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tcnpm 1/1 Running 1 12m 10.8.0.149 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1sample-tvrb7 1/1 Running 1 12m 10.8.0.151 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> 1/1$ kubectl get clonesetNAME DESIRED UPDATED UPDATED_READY READY TOTAL AGEsample 4 4 4 4 4 20m
SidecarSet
Pod へ サイドカーコンテナをインジェクトする SidecarSet を実行してみたいと思います。
SidecarSet は指定したラベルにマッチした Pod に対して、サイドカーコンテナを自動的にインジェクトします。
ロギングやモニタリング・コンテンツ共有などの、サイドカーパターンなどでの利用が想定されます。
では、こちらも公式ドキュメントのサンプルを参考に、SidecarSet を実行していきます。
実行内容として、はじめに SidecarSet を作成、その後に Pod をデプロイしサイドカーコンテナのインジェクトを確認します。
SidecarSet では Volume を利用する事が出来るので、今回は SidecarSet でインジェクトされたサイドカーコンテナと、
Pod のメインコンテナ で emptyDir をマウントし、コンテナ間でのデータ共有も確認してみたいと思います。
SidecarSet のマニフェストを作成しデプロイします。
サイドカーコンテナをインジェクトする Pod のラベル app:busybox
をセレクターへ設定します。
ボリュームの設定として、emptyDir で ボリュームを /var/log へマウントするようにも設定しています。
apiVersion: apps.kruise.io/v1alpha1kind: SidecarSetmetadata:name: test-sidecarsetspec:selector:matchLabels:app: busyboxupdateStrategy:type: RollingUpdatemaxUnavailable: 1containers:- name: sidecarimage: centos:7args:- /bin/sh- -c- sleep 3600volumeMounts:- name: log-volumemountPath: /var/logvolumes:- name: log-volumeemptyDir: {}
SidecarSet が作成されました。
$ kubectl get sidecarsetsNAME MATCHED UPDATED READY AGEtest-sidecarset 0 0 0 11s
次に Pod のラベルへ app: busybox
を設定しデプロイします。
こちらも emptyDir で ボリュームを /var/log へマウントし、データ共有を確認するためテストファイルを書き込むようにしておきます。
apiVersion: v1kind: Podmetadata:labels:app: busybox # matches the SidecarSet's selectorname: test-podspec:containers:- image: busyboxname: mainargs:- /bin/sh- -c- echo "sidecar test" > /var/log/test.log && sleep 3600volumeMounts:- name: log-volumemountPath: /var/logvolumes:- name: log-volumeemptyDir: {}
Pod をデプロイすると、READY
が 2/2
となり、Pod へ サイドカーコンテナ (sidecar) と、メインコンテナー ( busybox) が作成されます。
$ kubectl get sidecarsetsNAME MATCHED UPDATED READY AGEtest-sidecarset 1 1 1 66s$ kubectl get pod -o wideNAME READY STATUS RESTARTS AGE IP NODE NOMINATED NODE READINESS GATEStest-pod 2/2 Running 0 6s 10.8.0.183 ap-northeast-1.192.168.1.170 <none> <none>$ kubectl describe pod test-pod | tailType Reason Age From Message---- ------ ---- ---- -------Normal Scheduled 37s default-scheduler Successfully assigned default/test-pod to ap-northeast-1.192.168.1.170Normal Pulled 36s kubelet Container image "centos:7" already present on machineNormal Created 36s kubelet Created container sidecarNormal Started 36s kubelet Started container sidecarNormal Pulling 36s kubelet Pulling image "busybox"Normal Pulled 34s kubelet Successfully pulled image "busybox" in 2.655062088sNormal Created 34s kubelet Created container mainNormal Started 34s kubelet Started container main
2つのコンテナからマウントされたボリュームで、テストファイルを参照する事ができています。
$ kubectl exec -it test-pod -c main -- cat /var/log/test.logsidecar test$ kubectl exec -it test-pod -c sidecar -- cat /var/log/test.logsidecar test
まとめ
OpenKruise の CloneSet と SidecarSet をためしてみましたが、ご紹介できなかった他のリソースについても簡単に実行できるようになっています。
今回参考にした OpenKruise 公式ドキュメントの他、Alibaba Cloud のブログにも OpenKruise の導入背景や機能が詳しく書かれているので、もしご興味があればぜひ参照してみてください。
https://community.alibabacloud.com/tags/type_blog-tagid_29383/